1. 新しい世界に馴染めない日々
進学校に入学してすぐ、颯太くんはその環境の違いを実感した。
「ここ、やる気のあるやつばっかだな……。」
授業のスピードは速く、クラスメイトたちは当然のように先生の話を理解していた。
宿題の量も多く、定期テストの難易度も小学校とはまるで違った。
「俺、ここでやっていけるんかな……？」
そんな不安を抱えながらも、彼は「お父さんの学校に行く」と決めて入学した。
頑張ろうとはしていた。
しかし——
✅ 授業スピードが速すぎて、ほとんどの科目でついていけない
✅ 数学は「図形問題」だけは得意だが、他の単元は全然ダメ
✅ 国語だけは平均点を取れているが、それ以外の科目は軒並み低い
✅ クラスメイトの意識が高く、自分だけが取り残されている感覚になる
「数学はまあ、なんとかなる。」
彼はそう言っていた。
確かに、もともと算数の図形問題は得意だった。
数学の授業でも、図形問題のときだけは少し楽しそうにしていた。
だが、関数や方程式が出てくると、一気に理解が止まった。
一方、国語だけは平均点をキープできていた。
それは、彼のお祖父様の影響が大きかった。
2. 国語ができる理由——お祖父様の教え
「颯太、本を読みなさい。」
彼のお祖父様は、幼い頃から何度もそう言っていた。
父親を早くに亡くした彼にとって、お祖父様の言葉は大きかった。
「いいか、国語はな、全部の勉強の土台になるんだぞ。」
お祖父様の家には、たくさんの本があった。
颯太くんは、そこにある本を手に取って読むのが習慣になっていた。
「……なるほどね。」
彼はよく、静かに本を読みながら、うなずくことがあった。
その習慣が、読解力として蓄えられていた。
だから、国語のテストだけは苦労しなくても平均点を取れていた。
しかし、それ以外の科目は——
3. 成績が下位層に沈む
1学期の中間テストの結果——
彼の順位は、クラスで下から数えたほうが早いくらいだった。
✅ 数学の図形問題だけは満点に近い
✅ 国語は平均点以上
✅ 英語、理科、社会は壊滅的
「まあ、最初はこんなもんでしょ。」
彼は軽く流していたが、お母様は明らかに焦っていた。
「このままだと、進級も危ないって……！」
進学校では、成績があまりにも悪いと「進級判定」がかかることもある。
「せっかく入ったのに、このままじゃヤバいよ……！」
お母様は、だんだんと焦りを募らせていた。
4. 先生たちからの目
問題は、成績だけではなかった。
授業態度の面でも、先生たちから目をつけられるようになっていた。
✅ 指示されたことをすぐにやらない
✅ 授業中にぼーっとしていることが多い
✅ 国語と数学の図形問題だけは積極的に解くが、それ以外は消極的
「もっと真剣に取り組みなさい。」
ある日、数学の先生にそう言われた。
しかし、彼はふっと笑ってしまった。
「え、今の俺、そんなヤバいっすか？」
先生は眉をひそめた。
「そんな態度だから、あなたは成績が低いんですよ。」
その一言が決定打になり、彼はますます先生たちに目をつけられるようになった。
5. お母様が呼び出される
「このままだと、学校に馴染めずに終わってしまいます。」
「ご家庭でも、一度よく考えていただけますか？」
学校側は、遠回しにこう言った。
「学校を辞めたほうがいいのでは？」
お母様は、衝撃を受けた。
（せっかく合格したのに、もう退学の話が出るなんて……。）
その夜、お母様から連絡が来た。
「先生……颯太が、このままこの学校に通い続けるのが正しいのか、分からなくなってきました。」
私は、彼女の声を聞きながら考えていた。
（ここで、どうすべきなんだろう。）
彼は「お父さんの学校に行く」と言って、この学校に入った。
しかし、今の状況は——
「颯太くん自身は、どう言っていますか？」
「……『まあ、大丈夫っしょ』って。」
私は、少しだけ息をついた。
（本当に、大丈夫だと思っているのか？ それとも——）
（「もうどうでもいいや」と思っているのか？）
6. 彼との対話
「先生に、結構注意されてるんでしょ？」
「まあ、ね。」
「どう思ってる？」
彼は少し黙った後、こう言った。
「うーん、俺、別に授業で喋ってるわけでもないし、そんなに悪いことしてないんだけどね。」
私は静かに言った。
「颯太、辞めるかどうかはお前次第だけど——もうちょっと考えてみようか。」
彼は、少しだけ驚いた顔をした。
📌 次回予告：第8話「続けるか、辞めるか」
第8話「続けるか、辞めるか」～「ギリギリ大丈夫」の裏にある不安～
