(第1話)「15分だけ、向き合ってみた日」~破いたプリントと、最初の一歩〜

「15分だけ、向き合ってみた日」


📌 偏差値50から慶應合格は無理?…いいえ、可能です!

💡「才能ではなく、戦略と継続で合格は決まる!」

👉 Kindleで今すぐ読む

1. 熊本の住宅街での初対面

「やりたくない。」

颯太くんは腕を組み、机に肘をつきながら言った。

熊本のとある住宅街。古くからある家々が並ぶ静かな町の一角に、颯太くんの家はあった。

福岡のビジネススクールでお母様と出会い、「息子の指導をお願いしたい」と頼まれたのがきっかけだった。

「学校の先生も手を焼くほどで、集中力が続かないんです。15分も持たないし、気に入らないことがあるとすぐに怒ってしまって……。」

お母様は申し訳なさそうに話していたが、実際に目の前で見ると、それ以上に手強そうだった。

「今日は算数の復習をしよう。」

「嫌だ。どうせできないし。」

颯太くんは机の上のプリントに目もくれず、横を向いたまま動かない。

私は特に何も言わなかった。

すると、彼は次の瞬間、プリントを掴み、ビリビリッ と破り始めた。

「……」

私は黙って見ていた。

何かを言えば、さらにヒートアップするだろう。だから私は、ただ静かに見守った。

プリントの破片が机に散らばる。

「勉強なんて意味ないし。」

お母様が慌てて止めようとするが、私は軽く手を挙げて制した。

(今は、彼の言いたいことを聞く時間にしよう。)

2. 彼の言葉を聞く時間

しばらくの間、颯太くんはプリントを破いたまま、黙っていた。

私は何も言わず、彼が話し出すのを待った。

やがて、ぽつりと呟くように言った。

「……勉強しても意味ないし。」

私は静かに聞いていた。

「どうせ俺にはできないし、先生とか親とか、みんな怒るし。」

私は少し微笑んで、ゆっくりと口を開いた。

「そう思うんだね。」

「……うん。」

「じゃあ、今日はもう勉強のことはいいよ。颯太くんの言いたいこと、もっと聞かせてほしい。」

彼は驚いたような顔をして、一瞬だけ私を見た。

「……別にない。」

「そっか。でも、勉強が意味ないって思う理由、もう少し聞きたいな。」

「……。」

彼はしばらく沈黙していたが、小さな声で続けた。

「やっても、できないし。」

「できないって思うのは、どうして?」

「……だって、先生とか、親とか、みんな賢いほうがいいって言うし。」

「うん。でも、颯太くん自身は、どう思う?」

「……できないよりは、できるほうがいいとは思うけど……。」

私は小さく頷いた。

「うん。それなら、意味ないってことはないね。」

彼はきょとんとした顔をした。

「でも……やっぱり無理だし。」

「今は、そう思うかもしれないね。」

私は時計を見た。そろそろ時間が来る。

3. 最後の15分

「今日は颯太くんの話を聞けたから、それで十分だった。でも、せっかくだから、最後に1題だけ解いて終わらない?」

彼は少し考え込んだ。

「……1題だけ?」

「うん。1題だけでいいよ。もしダメでも、それで終わればいい。」

彼はしばらく悩んでいたが、やがて鉛筆を手に取った。

私は簡単な計算問題を渡した。

彼はゆっくりと解き始めた。

途中で少し止まりかけたが、「あとちょっと」と声をかけると、最後まで解き切った。

「合ってる?」

私は赤ペンを持ち、彼の解答を見た。

「うん、正解。」

「……ふーん。」

無表情を装っていたが、少しだけ口元が緩んだのを私は見逃さなかった。

4. 母親との会話

帰り際、玄関でお母様と話をした。

「先生、すみません……。あの子、本当に手がかかって……。」

「いや、思ったよりも面白い子ですよ。」私は笑った。「ちゃんと向き合えば、変わるかもしれません。」

お母様は信じられないという顔をした。

「そんなこと……本当にありますか?」

「ありますよ。」私は断言した。「ただ、時間はかかるかもしれません。でも、今日の15分で、少しだけ何かが変わる気がしました。」

お母様は少し目を潤ませながら、小さく頷いた。

「……先生、どうか、よろしくお願いします。」

「はい。」私は深く頷き、熊本の町を後にした。

電車に揺られながら、颯太くんの言葉を思い返していた。

「できないよりは、できるほうがいいとは思うけど……」

それは、「変わりたい」という小さな気持ちの芽生え なのかもしれない。

でも、それをどうしたらいいのか分からないだけ。

それなら、まずは「できる」という感覚を少しずつ与えていこう。

そう決めた。

📌 次回予告:第2話「どうしようもない日々」

第2話「1問解けた、その次へ」

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です