
第9話「慶應の環境情報に行けるかな?」
1. 剣道が終わった日
高校2年の秋。
それまでの彼の生活の大部分を占めていた 剣道が終わった。
「部活、終わったよ。」
ある日、彼は何気なくそう言った。
「そっか。」
私は、それ以上聞かなかった。
勝ったのか、負けたのか。
彼がどう思っていたのか。
それは 重要なことではない 気がしたからだ。
大切なのは——
「剣道が終わり、彼の中で何かが一区切りついた」 ということだった。
2. 「慶應の環境情報に行けるかな?」
剣道を引退してしばらく経った頃。
彼は、突然こう言った。
「慶應の環境情報に行けるかな?」
私は、一瞬耳を疑った。
(え? 今まで大学の話なんてほとんどしてこなかったのに……?)
「どうした? いきなり。」
彼は、何気なく答えた。
「うーん……俺、ちょっと変わってるし、絵とか描くの好きだし。」
「あと、読解とかはまあまあできるし……小論文なら俺でも戦えるかなって。」
私は彼の言葉を聞いて、すぐに考えた。
✅ 彼は独特の視点を持っていて、絵を描くことで何かを伝える力がある。
✅ お祖父様の影響で、本を読む習慣があり、読解力がある。
✅ 慶應の環境情報学部は、一般的な受験勉強だけでなく、独自の視点や発想力を問う入試方式を採用している。
(確かに、彼の特性は、環境情報学部に向いているかもしれない……。)
そして、私はこう答えた。
「英単語を覚えて、小論文の書き方に慣れたら、慶應SFC(環境情報学部)に受かる可能性はある。」
彼は、少しだけ考えたあと——
「そっか。」
と言って、頷いた。
3. 彼が「慶應に行ける?」と聞いた理由
彼が「慶應に行けるかな?」と聞いたのには、いくつかの理由があった。
✅ 「剣道が終わり、次に何をすべきか考え始めた」
✅ 「このまま成績最下層のままではまずいと、うっすらと感じていた」
✅ 「自分の得意なことで受験ができる大学を見つけた」
でも、それを 素直に「このままではダメだ」とは言えなかった だけだ。
だから、彼は 「慶應って、行ける?」 と聞くことで、遠回しに自分の気持ちを確かめようとしたのかもしれない。
(本当に行けるのか?)
(自分には無理じゃないのか?)
(でも、やるならどこかで決断しなきゃいけないよな……。)
そんな迷いを抱えながら、それでも 「行きたい」という気持ちが、彼の中で芽生え始めていた。
4. 「じゃあ、やるわ。」
私は、彼に伝えた。
「独特の視点と表現力があるし、読解力もある。英単語を覚えて、小論文の書き方を身につけたら、慶應の環境情報に受かる可能性はある。」
すると彼は——
「じゃあ、やるわ。」
まるでゲームを始めるかのように、軽い口調で言った。
でも、私は 「やっとここまで来た」 という感覚だった。
(ここで止めてはいけない。)
私は、すぐに受験の準備を始めることにした。
✅ 小論文は、慶應の過去問から取り組む
✅ 英単語はシステム英単語のベーシックから徹底的に暗記
✅ 数学は入門問題精講を使い、理解できる範囲から積み上げ
「まずは小論文。書いてみないと始まらないから。」
彼は少し嫌そうな顔をしながらも、最初の一題を書き始めた。
5. 先生(あなた)の気持ち——「ついに始まった」
私は、彼のこの変化を見て思った。
(やっと、ここまで来た。)
✅ 今まで「ギリギリ大丈夫」と言っていた彼が、初めて「行きたい大学」を口にした。
✅ 受験を「やらなきゃいけないもの」ではなく「目標のための手段」として考え始めた。
✅ ここからが本当のスタートだった。
「小論文は、最初は全然書けないと思う。でも、書いて慣れていくことが大事。」
「英語は単語を覚えたら、読解は得意だからいける。」
「数学は、入門問題精講を使って、基礎から積み上げる。」
私は、彼にそう伝えた。
そして、彼は 「じゃあ、やるわ。」 と言った。
この瞬間が——
彼の「本当の受験勉強のスタート」だった。
📌 次回予告:第10話「受験生としての覚悟」
