第5話「変わり始めた日常」~「わからん!」は、まだ終わらない~


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1. 安定してきた学習態度

1ヶ月ぶりの熊本訪問。

玄関を開けると、お母様が少しホッとした表情で迎えてくれた。

「先生、いつもありがとうございます。最近は、前より少しだけ勉強に向き合う時間が増えたように思います。」

「それはいい兆しですね。」

「でも……」

お母様は少し不安そうな顔をした。

「勉強していると思ったら、急に絵を描き始めたりするんです。」

私はクスッと笑った。

「まあ、今はそんな時期かもしれませんね。」

最近の颯太くんは、「わからん!」と爆発する回数が減り、学習に向き合う姿勢が安定してきていた。

前回も、新しい問題に取り組みながらも、イライラすることなく「考える時間」を持つようになっていた。

(今日はどんな調子かな?)

私は少し期待しながら、彼の部屋へ向かった。

2. すんなり解けた復習問題

「こんにちは。」

部屋に入ると、颯太くんは机に座っていた。

最近は、私が来てもゲーム機を持ったまま無視することも減ってきた。

彼は私をちらっと見ると、「……ん。」と小さく頷いた。

私はカバンからプリントを取り出し、机の上に置いた。

「まずは、前回の復習からやろうか。」

彼はちらっとプリントを見ると、特に何の感情も見せず、鉛筆を取り、問題を解き始めた。

(やっぱり、すんなり解けるようになっている。)

「できた。」

彼は解答を私に渡した。

私は確認し、頷いた。

「うん、正解! 計算ミスもないね。」

「ふーん。」

彼は淡々としていた。

3. 「なんでそう解くの?」の爆発

「じゃあ、次は新しい問題ね。」

私は、新しい問題をプリントで渡した。

それは、中学入試のちょっと難しめの算数の問題だった。

彼はじっと問題を見つめた。

しばらく鉛筆を動かしながら、考えている。

私はその様子をじっと見守った。

しかし——

「……は?」

彼の鉛筆が止まり、突然、プリントを叩いた。

「なんでそう解くのか分からん!」

苛立った声が部屋に響く。

私は少し身を引き、彼の様子をうかがった。

(また、来たな……。)

彼はしばらくプリントを睨みつけていたが、やがて 「もういい!」 と言わんばかりに、スケッチブックを取り出して、絵を描き始めた。

(あぁ……今日はもうダメか。)

私は特に何も言わず、彼が絵を描くのを静かに見守った。

4. お母様が目撃する瞬間

しばらくして、部屋のドアが静かに開いた。

「ちょっと休憩しましょう。」

お母様が、小さなお皿におやつを載せて持ってきた。

しかし——

彼女の目に飛び込んできたのは、息子が数学の問題を放棄し、スケッチブックに夢中で絵を描いている姿だった。

お母様の手がピタッと止まる。

「……え?」

お母様は明らかに動揺した。

「ちょっと……勉強中じゃなかったの?」

颯太くんは顔も上げず、「うん。」とだけ答えた。

「……でも、絵を……?」

お母様の声には、焦りと戸惑いが滲んでいた。

5. 先生(あなた)の冷静な対応

私はお母様に視線を向け、落ち着いた声で言った。

「大丈夫ですよ。今はちょっと気持ちを落ち着けているところです。」

「で、でも……」

お母様は明らかに戸惑っている。

「だって、勉強中なのに……! こんなこと、許していいんでしょうか?」

私は微笑んで答えた。

「彼は、今までとは違って、完全に投げ出してはいません。ちょっと気持ちを整理しているだけですよ。」

お母様はまだ納得できない様子だったが、私が慌てずに対応しているのを見て、少し落ち着きを取り戻したようだった。

「……そう、ですか。」

「休憩も大切です。15分後に、もう一度問題に向き合ってみますね。」

私はそう言いながら、テーブルの上のおやつを颯太くんの横にそっと置いた。

6. ラスト15分の再チャレンジ

時間が過ぎていき、指導の終わりが近づいてきた。

私は、最後の15分になったところで、静かに声をかけた。

「じゃあ、最後にもう一回、一緒にやってみない?」

彼はスケッチブックをめくりながら、ちらっと私を見た。

「……。」

そして、スケッチブックを閉じた。

ため息をつきながら、プリントを手に取る。

私は、彼の様子を見ながら、ゆっくりと解説を始めた。

彼は時折、「分かるけど、分からん。」と呟きながらも、前のように完全に拒絶することはなかった。

(ここで終わらせる必要はない。また次回やればいい。)

7. お母様の不安と、次の一歩

指導が終わった後、お母様が心配そうに声をかけてきた。

「先生……本当にこのままでいいんでしょうか?」

私は笑って答えた。

「はい。彼は、確実に成長していますよ。」

お母様はまだ不安そうだったが、それでも私の言葉を聞いて少しホッとしたようだった。

📌 次回予告:第6話「感情との戦い」

第6話「中学受験と新しい世界」~「お父さんの学校に行きたい」~

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